どことなくなんとなく

研究の息抜きに綴る適当な文章

アドレナリンとエピネフリン

どちらも同じ物質のことです。

副腎髄質から分泌されるホルモンであり、神経節や脳神経系における神経伝達物質でもあります。

ストレス反応の中心的役割を果たし、血中に放出されると心拍数や血圧を上昇させ、瞳孔を開き、血糖値を上昇させます。

生理作用は簡単に書くとこんな感じなんですけど、どうして同じ物質なのに名前が2つあるんでしょうか。

勿論これには理由があります。

アドレナリンは1900年に高峰譲吉と助手の上中啓三がウシの副腎から世界で初めて結晶化しました。

しかしこの頃は副腎から放出される物質を抽出するのが流行っていました。

例えばドイツのフェルトはブタから単離した物質に「スプラレニン」と名付けました。

アメリカのエイベルはヒツジの副腎から分離した物質に「エピネフリン」と名付けました。

この「エピネフリン」はアドレナリンとは分子式の異なる物質でしたが、高峰譲吉の死後に、エイベルは高峰の研究は自分の研究の盗作であると主張しました。

アドレナリンの発表寸前に高峰がエイベルの研究室を訪問していたからです。

高峰の実績が主に発酵学の分野で、この分野の業績が乏しかったこともあります。

しかしながら後年、上中の残した実験ノートにより反証が示され、高峰と上中のチームが最初のアドレナリンの発見者であったことは確定しています。

現在では、アドレナリンもエピネフリンも同じ物質のことを指します。

ヨーロッパでは高峰らの功績を認めて「アドレナリン」の名称が使われています。

アメリカではエイベルの主張を受けて、「エピネフリン」と呼んでいます。

日本では、生物学の分野では「アドレナリン」、医薬品の名称としては「エピネフリン」です。

日本らしく、とても中途半端。

自分が学会などで発表する時は「アドレナリン」を用いています。

何か、こういう話を聞くとイヤになっちゃいますね。

「じゃあ書かなきゃいいじゃん」は言わない約束です。