ES細胞論文のデータ虚偽
とうとうソウル大黄教授のヒトクローン胚からのES細胞樹立に関する研究がデータ虚偽だと断定されたようです。
なお、ヒトクローンやES細胞に関しては以前書いているので、そちらも参照して下さい。
ヒトクローン胚からのES細胞株の樹立は、様々な倫理的問題を内包しているものの、将来の医学に多大なる貢献をする可能性を秘めています。
臓器移植の際に問題になる、臓器の不足や拒絶反応と言った問題を全てクリアできるからです。
また、現在は対処できない病気に対しての画期的な治療法に繋がることも予想されます。
そのため、この論文は非常に大きく扱われ、サイエンス誌に載っています。
その論文のデータが捏造であったことが断定されました。
データが捏造された背景を伺い知ることは出来ませんが、色々想像することは可能です。
そこにはヒトクローン胚を用いる研究ならではの問題があるのだと思います。
ヒトクローン胚の研究に対しては、各国はかなり慎重になってます。
フランス、イギリス、日本では一部研究を容認していますが、非常に規制が厳しいです。
アメリカやドイツでは全面禁止です。
「ヒト」を扱うのですから当然と言えます。
そんな中、韓国は例外でヒトクローン胚研究をむしろ奨励していました。
そして数々の成果をあげてきたのも事実です。
この各国のヒトクローン胚に対するスタンスの違いにより、一つの問題が生じます。
それは、韓国以外の国では確認の為の研究が行えないこと。
韓国から出されたヒトクローン胚の研究成果を他の国の第三者が確かめることができないのです。
また、研究者自身にとっても「ヒトクローン胚」は非常に難しい存在です。
日本の場合は「宗教」による思想と言うものは殆どありませんが、国が違えば事情は異なります。
特にカトリック教徒にとっては、ヒトクローン胚とは言えヒトの命を絶つことに繋がるこの研究は受け入れがたいものがあるはずです。
しかし純粋に「研究者」としての立場でなら、非常に興味があるのもまた事実だと思います。
受け入れがたいが(研究できなくて)非常に悔しいし、研究成果には非常に興味がある、と。
このような特殊な状況にあるからこそ、今回の研究成果は非常に重要で、しかも研究を行なった当人たちには大変な名誉でした。
韓国が国をあげて彼らを英雄に祭り上げたという事情もあります。
データを捏造してでも名誉が欲しくなったとしても不思議ではないくらいに。
私のような研究者の見習いで端くれの身としても、とても身が引き締まる思いです。
データの捏造は研究をする上で最も唾棄すべき行為です。
研究には「正解」というものがなく、答えが分からないからこそ研究をしています。
そうなると如何に不可解な結果でも、出た結果を信じるしかありません。
事実を歪曲すること無く、常に考え続けながら研究を行なっていかねばならないと思っています。