どことなくなんとなく

研究の息抜きに綴る適当な文章

感情のない世界

ちょっと前、多分去年の8月くらいに乙一さんの小説の「夏と花火と私の死体」を読みました。 "夏と花火と私の死体" (乙一) これは乙一さんのデビュー作で、彼が16歳のときに執筆した作品なのですが…。 読んでいて凄く不思議な感覚のする作品でした。 少しだけ内容を説明すると、「私」を殺してしまった幼い兄妹が「私の死体」を隠そうとする話です。 それが淡々と「私」の一人称で語られます。 一度読んでくださると分かると思うのですが、凄く「不思議」な感覚なんです。 内容としては「殺人」とか「死体」とか主人公が幼いが故の「無邪気な残酷性」とか、決して明るい話ではありません。 でも読んでいる感覚としては「ほのぼの」とすらしてしまいます。 ラストの不思議なハッピーエンドと共に、私に強い印象を残した作品です。 そして先週、乙一さんの短編集「ZOO」を読みました。 "ZOO1" (乙一) "ZOO2" (乙一) これははっきり言って凄かったです。 短編集なので一つ一つの話は違う話なのですし、(少ないですけど)明るい話もあり、暗い話もありという感じでした。 ただ、どの作品も外れがなく、私の予想をそっと裏切って、最終的にはそれしかないだろうと思わされる結末に導かれています。 そしてこれらの短編の中で最も強烈で印象的なのは1巻に載っている「SEVEN ROOMS」でした。 これほどまでに続きが気になり、読んでいる最中の果てない絶望感と最も残酷な形で叶えられるただ一点の希望をねっとりとした嫌悪感と共に味わえる作品を他には知りません。 私はこの作品を新幹線の中で読んだのですが、読み終わった後に次の短編を読む気力が残ってませんでした。 かなりオススメです。 まだ私は乙一さんの本をこれしか読んだことないので、是非とも他の作品も読もうと思っています。 そしてたった三冊ですが、私が乙一さんの本を読んで特に感じることは、「文章そのものの感情が希薄」ということです。 淡々と語られる文体は、時に残酷な話を「ほのぼの」とすら感じさせ、時に残酷な話を「激しい嫌悪感」と共に味わわせてくれます。 これはとても不思議な感覚です。 乙一さんに関してはすでに各所で話題になっているので「今更かよ」と思われた方も多いとは思いますが、未読の方は是非読んでみてください。 とても面白いですから。