どことなくなんとなく

研究の息抜きに綴る適当な文章

真似はできないけど

ちょっと前まで、何十年間もの間、潰瘍の原因はストレスであるとされていました。

ストレスによって過剰に分泌された胃酸が、胃や十二指腸の粘膜を侵し、潰瘍に至るという説明です。

ところが、オーストラリアの研修医だったピル・マーシャル博士は、潰瘍の組織切片の顕微写真中に、ヘリコバクター・ピロリ菌という健康な人にも一定の割合で存在する、ごく普通の細菌がたくさんいることに気付きました。

潰瘍の組織切片にあまりにも頻繁にこの菌が見られるので、彼はひょっとするとこの菌が潰瘍の原因ではないか、と考えるようになりました。

しかし教授には、「そんなはずはない。潰瘍がストレスで起こるのは周知のことだ。それはすでにできた潰瘍への二次感染だ。」と否定されました。

しかし、マーシャルは納得できなかったので、研究を続けました。

疫学的に、ヘリコバクター菌の分布と十二指腸潰瘍に強い相関関係が見られました。

しかし、この所見は彼の分野の研究者たちには受け入れられませんでした。

やっきになったマーシャルは、培養した細菌を飲み込み、数週間後に内視鏡検査を行なって、胃腸管のあちこちに潰瘍ができているのを実際に示しました。

この話は、古い考えに固執せずに新しい考えを検討する大切さ、および高級な設備を必要としない研究でも、独力で大変革を起こすことが可能であるということを示しています。

これは研究を行なう上ではとてもとても大事なことで、常に意識して考える必要のあることです。

研究のスキームを一生懸命工夫することで、安価で分かりやすく、それでいて革新的な結果を出すことは可能なんだと思います。

でも、培養した細菌を飲むのは無理。

菌の入っていない培地だけでも無理。