クローン
「クローン」と聞くと何を思い出しますか?
クローン人間?
サイバイマン?
それともエストニアの通貨単位?
今回はクローン人間についてです。
そもそも「クローン」とは、同一の起源を持つ均一な遺伝情報を持つ核酸、細胞、個体の集団のことです。
従って一卵性の双子はクローンであると言えます。
植物については、古くから挿し木などのクローン技術が利用されてきています。
動物のクローン研究でターニングポイントとなったのは、1997年に発表されたクローンヒツジの「ドリー」だと思います。
「ドリー」の画期的だった点は、ヒツジ乳腺細胞由来の体細胞クローンであったことです。
体細胞からクローンを作れることは、その応用範囲が爆発的に広がります。
現在までに、マウス、ヒツジ、ウマ、ヤギ、ウサギ、ブタ、ネコ、ラット、イヌなどの多くの哺乳動物において、体細胞クローン作製の成功が報告されています。
ネコについては、クローン作製を商売にしている企業もあります。
当然のことながらヒトクローンの研究については各国で厳しい規制がなされています。
しかしこれには2つの立場があり、このことが国際的な議論の遅れにも繋がっています。
一つは、クローン個体の産生だけではなく、治療に用いることを目的とするクローニング(具体的にはES細胞の利用)も禁止するという立場。
(ES細胞とは、初期胚から取り出すことのできる多分化能を保持した細胞のこと。全ての組織に分化することができる。クローン胚から取り出したES細胞を用いて組織を作製すれば、体細胞の提供者に関しては拒絶反応を回避できる)
この立場を取るのはバチカンを中心としたカトリック圏の国々、そして保守層を支持基盤とするブッシュ政権のアメリカです。
もう一つは、クローン個体の産生のみを禁止し、治療目的のクローン技術は各国の判断に委ねるという立場。
この立場を取るのはドイツ、フランス、中国、イギリス、日本などです。
例えばフランス、イギリス、日本は一部ヒトクローン胚の研究を容認しています。(ドイツは全面禁止)
また、韓国ではヒトクローン胚からのES細胞株樹立に成功しています。(国を挙げてヒトクローン胚研究を奨励しているのは韓国だけ)
どこからが「人」なのか。
これが上記のような問題になっています。
受精した瞬間から「人」であると解釈すると、前者のような立場を取るしかありません。
また、この問題は宗教的な側面を強く持っています。
論理的な議論によっては解決の難しい、宗教的な問題です。
生命科学研究の端っこに居る身としては、「生命倫理」というのは不可避の問題です。
そして対象がヒトである場合、それはとても難しい問題です。
私自身は治療目的のヒトクローン胚の研究はやむを得ないと考えています。
倫理的、技術的に超えなくてはならないハードルは山ほどありますが、これが実用化されれば医療が抜本的に変わる可能性を持っています。
自分が将来的に、このようなクローン研究に携わる可能性も無くはないことを考えると、やっぱりとても難しい問題です。