どことなくなんとなく

研究の息抜きに綴る適当な文章

リスクの問題

インフルエンザ薬の一つであるタミフルの10代への投与が原則禁止されたようです。 <タミフル>新たに異常行動2件 厚労省が10代の服用禁止 理由としてはタミフル服用後の異常行動により死亡した例が数例続いてきたからです。
タミフル服用後に異常行動を起こし、死亡した子供の事故は04年以降、計5件発生している。今年2月には愛知県と仙台市で中学生がタミフル服用後に転落死する事故が相次ぎ、同省ではインフルエンザにかかった未成年について、発症後2日間は目を離さないよう保護者に促すよう医療関係機関に注意喚起していた。
記事のよると、一応公式に認められている「タミフル服用後に事故を起こし死亡した例は5件」ということみたいです。
タミフル】スイス・ロシュ社が製造するインフルエンザ治療薬。同社の推計では、01年の発売以来、世界の服用者の約8割にあたる約2450万人が日本で服用した。
とあります。2005年度のFDAの資料(PDF)によれば、16歳以下の子供への投与は1300万人とのことでした。 このうち死亡例は13例、内訳は1歳以下が1人、1~5歳が10人、5歳以上が2人(9歳と14歳)となってます。 死亡率としては100万人に1人です。 一方で平成17年度厚生労働科学研究「インフルエンザに伴う随伴症状の発現状況に関する調査研究」(PDF)では約2800人の小児について、タミフルの服用の有無と異常行動の発生率について調査しています。 一部引用します。
薬剤使用状況と臨床症状との関連性について検討したところ、タミフルと異常行動との関連性はタミフル未使用での発現頻度は10.6%であったのに対し、タミフル使用では11.9%と有意差を認めなかった。なお、同じ期間に異常言動発現とタミフル使用があった場合に、異常言動発現前にタミフルを使用したと仮定した場合のハザード比は1.16でp値0.259で有意差はなく、一方、異常言動発現後にタミフルを使用したと仮定した場合のハザード比は0.463であり、p値0.463でやはり有意差は認められなかった。
一方で肺炎合併については有意差があったようです。
肺炎合併についてみてみると、タミフル未使用の累積発生率は3.1%、タミフル使用では0.7%であり、また肺炎はタミフル使用前に併発したと仮定した場合のハザード比0.24(p値<0.0001)、使用後に併発したと仮定した場合には0.20(p値<0.0001)で、いずれの場合でもタミフルは肺炎を抑制していた。
ただし、この厚生労働省の調査は、2800人中約90%の小児がタミフルを使用していた状況での調査であるため、「タミフル未使用」の子供の数が少ないことは併記しておきます。 また、熊本大学発生医学研究センターの粂先生の調査でも、タミフル服用の有無にかかわらず異常行動が認められています。 http://www.k-net.org/temporary/flu/pub.htm 6ヶ月以内にインフルエンザに罹患した15-18歳の人達は、異常行動を起こすリスクが高いことが1988年段階で報告されてもいます。 Post-influenzal psychiatric disorder in adolescents. インフルエンザそのものでは、年間に数百~1000人程度が亡くなっています。 大部分は65歳以上の人のようです。 若年層の死亡率は、調べてみたんですが見つけられませんでした。 また、インフルエンザによる脳症は毎年100~300人の子供が罹っているみたいです。 その症状の中には幻覚や異常行動も含まれています。 インフルエンザ脳症の簡単な解説 いろいろ調べてみたんですが、やはり私には「タミフルを使用するリスク」は「使用しないリスク」に比べて小さいように感じます。 薬に副作用があるのは当たり前なので、薬を飲んだ場合と飲まなかった場合、どちらがマシなのか、で考えるしかないと思います。 例えば、私がインフルエンザに罹った場合、確実にタミフルを飲みます。 20年後、私に10代の子供がいたとして、そのころにタミフルよりも良い薬がなかった場合、その子供がインフルエンザに罹ったときはタミフルを飲ませると思います。 もちろん、24時間体制で監視しないとマズイでしょうが。 タミフルの服用を断った結果、インフルエンザに罹った人が死亡する、というケースが近い将来必ず起きると思います。 もしかしたらもう起きているかもしれませんけど。 でもタミフル服用によって死亡するリスクも当然あるわけで。 どちらのリスクを取るかは各人の責任だとは思いますが、しっかりと判断できるだけの情報は欲しいと強く思いました。