どことなくなんとなく

研究の息抜きに綴る適当な文章

研究者の上澄み

「生物と無生物のあいだ」を読みました。
生物と無生物のあいだ (講談社現代新書 1891)
福岡 伸一
講談社 (2007/05/18)
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非常に面白い本でした。 感想を一言で言うなら「きれいな研究者」。 この本は、生物学とは少し距離のある、研究者から見た場合の「一般の方」向けに「生物とは何か?そしてそれを研究する人は何か?」を分かりやすく第一線の研究者が書いた本なんですが、私のような研究者の端っこにこっそりといる人間が読んでも充分に読み応えのある本でした。 「分子生物学史」を語るのと同時に、筆者である「福岡伸一史」を語っています。 そしてその語り口は少しキザで、「研究者」の本当の「研究者」たる部分を綺麗に、とても綺麗に語っている印象を受けました。 「研究者」を構成する要素を遠心分離して、一番綺麗な「上澄み」の部分を、その魅せ方を知っている人が上手に魅せたらこうなるだろうなあ、という本。 自分が膨大な時間をかけて明らかにしたことを、「ジグソーパズルのピースに過ぎない」と表現している辺り、とてもキザです(誉めてます) この本に書かれている内容は、恐らく筆者の方が留学中(ロックフェラーからハーバードに居た時期)に研究なさった内容を元に書かれている「ノンフィクション」です。 あまり詳しくは書きませんが、膵臓に豊富に存在している「GP2」というタンパク質がどのような機能を持っているか、についてが彼の研究テーマでした。 特定のタンパク質の機能を調べる場合、よく使われる方法に「遺伝子ノックアウト法」があります。 マウスにおいて、そのタンパク質をコードしている遺伝子を働かなくした場合(壊した場合;knockout)、どのような不具合、症状が現れるかを観察することで逆説的にそのタンパク質の機能を調べる方法です。 この方法は近年の分子生物学(およびその手法を応用した各分野)で非常によく用いられる方法で、私自身、この手法によって研究を進めてきました。 筆者は、この手法によって「GP2」の機能を特定しようとしましたが、その結果はこの手法を用いた研究者が最も恐れるものでした。 近年の分子生物学史、筆者自身の研究史、そして生物学的知見を上手に内包しつつ、非常に読みやすく、分かりやすくまとまっている大変に面白い本でした。 この分野に興味のある人には是非読んでもらいたいな、と思う本です。 おすすめです。 余談ですが、この本は基本的に研究(者)をカッコ良く書いてくれているのですが、その中においてさえポスドクは「ラブ・スレイブ」と称されているのは、なかなかシニカルで面白かったです。 「Love Slave (愛の奴隷)」ならまだ良かったんですけどね。 「Lab Slave (研究室の奴隷)」 話は全然関係ないんですけど、来年度からポスドクをやります(予定)。