闇に紛れて生きる
今日はどんな因果か、共同研究をしている教授と一緒に暗室に入ったんです。
彼らの研究室のサンプルを現像しないとならなかったらしいんですが、何故か私も巻き込まれてしまって。
「あ、それ5日くらいですよね?感光させた時間。現像するの少し早くありませんか?」
何故か私もその実験を把握してましたし。
放射性物質を使った実験を行った場合、放射線をフィルムや乳剤に感光させて、現像することでシグナルを得ます。
この作業は当たり前ですが、暗闇でやらないとなりません。
光があると、その光で全部感光してしまうからです。
そして暗闇と言えば暗室なので、共同研究先の教授と一緒に暗室に入ることになってしまいました。
完全な暗闇での作業ですので、全ては手探りです。
今回は私は部外者なので、実際に手を動かすことはしないで見てるだけでしたけど。
いや、見えないので何となく佇むだけでしたけど。
暗闇では、自分が何をやっても相手には見えないので、凄く楽しいです。
しかも現像は割と時間がかかるので、それならば見えないのを良いことに好き勝手に動きたくなります。
今回はとりあえず、教授と話をしながら軽くシャドーボクシングをしたり、あかんべーをしたり、自分のほっぺたを引っ張ったりしてました。
「そうですね。胎児期のlocus ceruleusでのこの遺伝子の発現は、なかなか興味深いですよね」
この言葉を発しているときには、カメハメ波を出そうとしてました。
相手にとっては私は音声のみの存在なので、別に何をしていても構いません。
自由。
楽しかったです。
現像が終わって明かりを点けたら、暗闇の自由時間はお終いです。
あたかもずっとそうしていたかのように、何食わぬ顔で教授の近くに立って、実験のことを少し話しました。
見える世界が全てでは決してないという話、かもしれません。