今ここにある危機
ちょっと前まで、テレビや新聞、インターネット等で「鳥インフルエンザ」という言葉を見聞きしていたと思います。
そして今は、殆ど聞きません。
しかし、これは鳥インフルエンザの脅威が無くなったわけではなく、単にマスコミが飽きてしまっただけです。
そんな中、Natureが特集を組んでいました。
Nature 435号より。
英語が苦にならない人は、こっちの記事も面白いかもしれません。
Avian flu special: The flu pandemic: were we ready?
(フィクションで描く世界的流行:準備はできていたって?)
鳥インフルエンザが流行したときの騒動のまっただ中にいる架空のジャーナリストのブログという形式の記事です。
そしてここからはちょっとした説明です。
上のリンク先に書いてあるようなことは、確かに考えうる最悪のケースに近いと思います。
こんなことは起こらないかもしれません。
でも、起きてしまう確率も少なからず存在します。
そもそも何故「鳥インフルエンザ」が問題なのでしょうか。
インフルエンザウィルスは赤血球凝集素というタンパク質を用いて、細胞内に侵入します。
また、ノイラミニダーゼというタンパク質を用いて、体中に拡散していきます。
この2つのタンパク質は変異を起こしやすく、多数の型を持っています。
インフルエンザウィルスはこの型により分類され、赤血球凝集素は「H」、ノイラミニダーゼは「N」という略号により表記されます。
例えば現在ヒトに感染するインフルエンザウィルスは「H3N2」と「H1N1」が主です。
そして鳥インフルエンザは「H5N1」です。
この形のインフルエンザウィルスには、人類は感染したことがありません。
それは、ヒトには感染出来ないからです。
しかし、ウィルスが変異を起こす、あるいはヒトインフルエンザウィルスと遺伝子交換を起こすなどにより、ヒトからヒトへの感染が可能になることは十分考えられます。
過去の大流行(例えばスペイン風邪(1918年, H1N1)やアジア風邪(1957年, H2N2)、香港風邪(1968年, H3N2)など)はウィルスがヒトへの感染能を獲得した結果、引き起こされたものです。
ヒトへと感染する新型のインフルエンザウィルスが登場した場合、そのウィルスに対する抗体を持っているヒトは存在しません。
従って、大流行となり、症状も強く顕われます。
H5N1ウィルスは高い病原性を持っています。
1997年に6人、2003年以降では50人以上の死亡者が出ています。
しかし「まだ」ヒトからヒトへと感染する能力は獲得していません。
1968年、比較的穏やかなH3N2ウィルスの流行により世界で75万人が死亡しました。
1918年はまさに悪夢で、H1N1ウィルスの流行で世界で4000万人が死亡しました。
もし、今H5N1ウィルスが流行した場合はおよそ3000万人という数字もあります。
今、一人一人がこの新型ウィルスに備えられることは、殆どありません。
行政レベルなら沢山ありますが。
ただ、「こういうことが起きうる」ということを頭の片隅に置いておくことは、全く知らないよりはいいんじゃないかと思い、長々と書いてみました。