やっぱりメカが好き
ここに何の変哲もない腕時計が一つあります。
機械式です。
裏ブタがシースルーになっていて、機械仕掛けが時を刻んでいる様子を観察できます。
時計を耳に近づけると、チクタクチクタクの音が心地いい。
大変に気に入っているのですが、機械式時計の宿命として、クォーツ式よりも誤差が大きくなることが挙げられます。
例えばこの時計、一日で25秒程度進みます。
しかし「一日で25秒進む」という現象そのものは非常に安定しています。
つまり、中の機械のリズムさえ少し変えてやれば、日差はもっと小さくなって安定するということです。
このリズムを調節している部分を「緩急針」と言います。
裏ブタから中を覗くと、緩急針が見えます。
開けたい。
裏ブタを開けたい。
緩急針を調節したい。
とにかく裏ブタを開けたい。
寝ても覚めても裏ブタを開ける妄想に取り憑かれました。
ここに何故か、裏ブタオープナーがあります。
早速裏ブタを開けにかかりました。
開けた瞬間に保証が効かなくなりますが、そんなことは知ったことではありません。
オープナーを調節し、裏ブタを開けるべく力を込めてオープナーに回転運動を与える。
意外に堅い。開かない。
更に力を込める。
まだ開かない。
もっと力を込める。
ガッ!
オープナーが裏ブタの溝から外れて、裏ブタのステンレスを激しく削る。
チャレンジの回数分だけ、裏ブタの傷が増えていく。
小一時間頑張ったものの、裏ブタは開かない。
残ったものは、裏ブタと私の心に深く刻まれた傷跡だけ。
ちくしょう、今日のところは勘弁しておいてやる。