どことなくなんとなく

研究の息抜きに綴る適当な文章

遺伝子とペルソナ

「三つ子の魂百まで」あるいは「栴檀は双葉より芳し」と言った表現に代表されるように、「個性」というものが遺伝によって決まるのか、それとも初期環境がより重要であるのかについては今なお論議を呼んでいます。

ヒトの場合、一卵性双生児を用いた性格の遺伝に関する研究から、遺伝的要因と環境要因がほぼ半々の割合で性格に寄与すると考えられています。

「環境」に関しては幼少期に母親からたくさんグルーミングを受けたラットは大人しく、グルーミングが少なかったラットでは不安傾向の増大や学習機能の発達に影響を及ぼすことが報告されています。

「遺伝」に関しては、例えばドーパミン受容体4型のエクソン3領域の反復構造(遺伝子の一部の繰返し配列)の数が多い多いヒトは新奇探求心が強いといった研究報告もなされています。

これらはほんの一例ですけどね。

「性格」もヒトの一形質であると考えれば、遺伝的要素を無視できないことは当然だと言えます。

最近、話をしているときや他所様のブログを拝見したときに「統合失調症」や「自閉症」というキーワードが気になりました。

というのも、私はこれらのキーワードから近い分野に居るからです。

私の解析している遺伝子に関して、これらとの関連が疑われているんです。

特に自閉症に関してはいくつか報告がなされています。

私は直接の解析をしていませんが、共同研究者の人達が色々な解析をした結果、おそらく何らかの情報が得られると思います。

メカニズムに言及できれば、その治療法の提案も可能かもしれません。

でも、このようなメンタルを扱うような分野の場合にいつも悩み続けていることがあります。

「性格」というにはちょっと極端ですが、ヒトの精神の特徴を示す言葉であることには間違いがありません。

そのようなものを「治療」した場合、その人のパーソナリティとしては違うものになってしまうんじゃないか、という疑問です。

これは実はすごく難しい問題だと思います。

考え続けないとならないことだと思います。

例え答えは出ないとしても。

精神世界というのは複雑怪奇、ちょっとやそっとで理解できることではありません。

特に「遺伝子」に全てを落とし込むのは無理です。

上の文では「メカニズムに言及できれば」と書きましたが、それさえも難しいと思います。

そして仮にそれが出来たとしても、更に考え続けないといけないのは前述した通りです。

それでも、少しでも知識を積み上げることが私のやるべきことなのかな、とも思います。

エベレストの頂上に砂粒を置いて「ちょっと標高が高くなった!」と言い張るくらいのわずかな積み上げにしかならないかもしれませんが、そこから何かが変わる可能性をはらんでいます。

考えながら悩みながら、砂の山を積んでいくしかないのかな、と思っています。

補足

上記の「治療」は「遺伝子治療」を想定して書いたものなんですが、何となく誤解を与えかねないと思うので訂正と補足です。

さまざまな療法は必要です、間違いなく。

念のため。